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Civic Techとソフトスキル。ベテランエンジニアWataruさんのキャリアを形作ったのはその2つだった

みなさんこんにちは!FrogメンバーのHiroshiです。今回インタビューに応じてくださったのは、現在 Routeware (旧 ReCollect, 合併により社名変更) という会社でスタッフエンジニアとしてご活躍中のWataruさん。Wataruさんがその身を置く領域は、Civic Techと呼ばれる領域。多くの人にとっては聞き慣れないこの言葉、彼にとってはそのキャリアのルーツとなった概念でもあります。WataruさんとCivic techとの出会い、そして彼のキャリアのスタートに関する内容は、彼のnote記事にまとめられていますので、まずはそのnote記事を読んで頂くことを強くおすすめ致します!

Unityというゲームエンジンを作る会社に1度転職するものの、その後またCivic tech領域の会社に出戻ったというWataruさん。今回のインタビューでは、Civic Techの魅力、そしてエンジニア職におけるソフトスキルの重要性について語って頂きました。AIの台頭によって技術のコモデティ化が懸念される昨今、ソフトスキルで非常に高い評価を得ている彼の話にはとても価値があるはずです。ぜひ最後までご一読ください!


ソフトスキルの重要性とその力

Hiroshi: Wataruさんといえば、ソフトスキル強者だというイメージがFrog内では浸透しているような気がするんですが、ご自身でもその重要性は感じてらっしゃいますか?

Wataru: そうですね。ソフトスキルの重要性は、多くの方々にぜひ知っておいて頂きたいです。

Hiroshi: そういう風に感じる場面が今までのキャリアでたくさんあったということでしょうか?

Wataru: そうですね。ちょっと順を追って説明させていただきますね。今いる会社は出戻りで入ったところなんですが、1回目のときは5年くらい働いたんです。その長い期間で、知らず知らずの間にソフトスキルを学んでいたんです。

Hiroshi: なるほど、具体的にはどのようなスキルなのでしょうか?

Wataru: 同僚とのコミュニケーションの仕方とか、プロジェクト・プロダクトのマネジメントとかその辺りですね。その会社を1回目に辞めた後、Unityという会社に入ったんですが、そこでソフトスキルの強さを認めていただいて、異例のスピードで出世させて頂けたんです。

Hiroshi: それはすごい!どのようなポジションチェンジだったんですか?

Wataru: はじめはインディビジュアルコントリビューター (非管理職) としての入社だったんですが、その昇進でエンジニアリングマネージャーとなりました。

Hiroshi: キャリアの面でとても良い経験ですね。

Wataru: 面接って普通のものとテクニカルなものがあるじゃないですか。アルゴリズムとかの。私実はあれが結構苦手で…その対策に自分の時間を投資できたことがないのですが、そんな私でも面接は結構受かってた実績があるので、技術が全てではなく、ソフトスキルも同等に重要ですよ、ということを言いたいです。

Hiroshi: 昇進のきっかけとなったソフトスキルについて、Unity在籍時に周りの方から何か具体的なフィードバックはありましたか?

Wataru: そうですね。距離感の取り方がとても上手いと褒めて頂いたことがありました。普段は友達のようにフランクに接していながらも、業務面でのフィードバックを行う時はきちんとマネージャーとしての顔に切り替える、というような感じですかね。

Hiroshi: 難しそうですが、僕個人的にもそのような上司が周りにいたらとても嬉しいです。

Wataru: エンジニアリングマネージャーって、自分の作ったものがログとして社内に残るわけではないので、とっても日陰の仕事なんですよね。言ってみれば、仕事を与えるプロダクトマネージャーと手を動かすデベロッパーの人達の中間に立って、通訳とか調整をするような仕事内容なんです。

Hiroshi: そこで、Wataruさんが培ったコミュニケーションスキルが活きたというわけですね。

Wataru: そうですね。プロダクトマネージャーとエンジニアリングチームって異なるドメインに位置すると思うんですが、そのドメイン間の通訳ができていたという点は評価して頂けました。

Hiroshi: 先程「知らず知らずのうちに…」という言葉が出ましたけど、特に研修等を受けたわけではなく、現場で身についていったということなのでしょうか?

Wataru: はい。私はとてもラッキーだったと思っているんですが、ReCollectで一緒に働いていた同僚の方たちがそういったスキルを持ってたんですね。私はジュニアとしてその会社でのキャリアをスタートしたんですけれども、「これいいな」って思った周りの人言動をどんどん真似していったんですよ。

Hiroshi: なるほど、そうやって時間をかけて醸成されていったスキルなんですね。

Wataru: ちょっとHiroshiさんは世代が違うかも知れないんですが、ドラゴンボールの中で孫悟飯がセルと戦う前にいつの間にか強くなってた、っていう、あれに近い感覚です。笑

Hiroshi: 僕もギリギリ世代です!笑

Wataru: 当時は、自分は会社の中で一番下に位置するデベロッパーだと思っていたんですが、いざ転職してみたら、自分は思っていたよりもスキルを身に着けていた、という体験でした。

Hiroshi: とっても素敵な職場だったんですね。

Wataru: 本当に恵まれていました。

効率的なリモートワークのコツ

Hiroshi: ソフトスキルの面で、周囲の人達に対して、「なんでこんなことができないんだろう…」みたいなことを思うことってありますか?

Wataru: 「なんでこんなことができないんだろう…」というよりは、「この人達はこういうことを知らないんだろうな」って思うことはたまにありますね。

Hiroshi: なるほど、どういった場面でしょうか?

Wataru: 今リモートワークが結構当たり前になってきて、Slackとかを使った非同期的なコミュニケーションをする機会がかなり増えましたよね。その非同期的な働き方の恩恵を100%享受できていない人が一定数いると思うんです。

Hiroshi: 理想的な非同期コミュニケーションというのは、どのようなものなんでしょう?

Wataru: 主な例は、パブリックなコミュニケーションを心がけるという点と、ドキュメントを書くことですね。

Hiroshi: なるほど。

Wataru: Unityでエンジニアリングマネージャーになってまずチームに徹底させたのがこの2つです。ダイレクトメッセージでやりとりしてると、同じことを違う人に複数回説明しなければいけなかったりしますよね。でもパブリックのチャンネルでやりとりしてるとそれが防げる。

Hiroshi: 同じことを複数回説明するストレスは確かにでかいです…

Wataru: ドキュメントも同じことですよね。北米では異なるタイムゾーンにいる人と働く機会って結構あると思うんですが、会議をするってなるとその分調整の手間も増えるじゃないですか。やっぱりミーティングの時間って増やしたくないので、一回ミーティングをやったら、その議事録や録画で情報を共有するようにしていました。

Hiroshi: みんなが出席しないといけない会議って実はそこまで多くありませんしね。

Wataru: エンジニアリングのDRY principle (Don’t Repeat Yourself の略。「同じことを繰り返すな」という意味) をソフトな面でも実践していたという感じです。

Hiroshi: なるほど!それは多くの人が持つべき視点ですね。コードに関するドキュメントの書き方で何か意識さされていることはありますか?

Wataru: コードってそもそも「何をしたいか」っていうのが実現された結果だと思うんですけど、その「何をしたいか」がドキュメントになってないことって結構あるんですよね。

Hiroshi: より抽象的な概念ということですね。

Wataru: 例えば、プロダクトマネージャーの人は、PRD (Product Requirement Document, 仕様書) というものを書くんですが、エンジニアリングチーム側では、PRDに記されている要件をどういうアプローチで実現するか、というのをドキュメントにするんです。それを実際にコードを書き始める前にするというのがポイントです。

Hiroshi: なるほど、そうすると、色々進んじゃってからやり直し…みたいなことが減りそうですね。

Wataru: はい。事前にシニアのメンバーがそのドキュメントをレビューすれば、そのアプローチの実現性が検証できるんですよね。結果として、エンジニア達が実際にコードを書き始める頃にはもう大体の質問を消化できている、という状態に持っていくことができるんです。

Hiroshi: 素晴らしいマネジメントです。

Wataru: やっぱり、疑問がある中でコードを書いていると、絶対手が止まっちゃうじゃないですか。そうなるとどうしてもパフォーマンスも上がらないんですよね。

Hiroshi: ただ、パブリックなコミュニケーションとか、ドキュメントに残そうとか、そういうのを嫌がる人もいそうだな…って思ったんですけど、周囲の反応はどうでしたか?

Wataru: 特に嫌がる人はいませんでしたよ。ドキュメント化を徹底するって言っても、全部を漏れなく書け!と言ったわけではありません。例えば、工数を見積もって2週間以上かかりそうなプロジェクトだったら書いてほしい、それ以下だったら別に書かなくてもいい、っていうような感じで、要件を絞りました。そして、強制もしませんでした。

Hiroshi: その程度なら無理なく浸透しそうですね。

Wataru: あと、スタンドアップミーティング (業務前に行う短い朝会のようなもの) の時間に、良いアクションはきちんと褒める、ということを徹底していました。彼がこういうドキュメントを書いたからこのエラーをキャッチすることができて、このぐらい効率が上がりましたよ、っていう感じで。

Hiroshi: それは素敵な文化です!士気向上につながりますね。

Wataru: 対面で働いてると、同僚とか部下を褒める機会って結構あると思うんですけど、リモートだとそういうタイミングってなかなかないんですよね。だからこそ意識して行動に移すようにしています。

Hiroshi: 無駄を削ぎ落とすためのリモートワークだからこそ、そういったソフトなコミュニケーションが重要になりますよね。ポジティブフィードバックの文化は、ReCollectにもあったんですか?

Wataru: ありましたね。誰かが新しい取り組みを始めたらきちんと褒めるという文化が浸透していました。コミュニケーションの方法はそれを見ながら覚えていった感じです。私が入った時、社員は13人とかだったんですが、辞める前には40人くらいまで増えたんです。会社と一緒に成長してたという感覚ですね。

Hiroshi: リモートワークの達人ですね。その文化がもっと広まって欲しいです。

Wataru: ReCollectでは5年間ずっとリモートワークをやっていたので、リモートワークのコツみたいなのはその経験で身に着いたような気がします。

ある日のビジネスミーティングの様子。リモートワークの達人です

Civic Tech領域での初仕事について

Hiroshi: ReCollectでの仕事内容はどのようなものだったんですか?

Wataru: ゴミ出しとかリサイクルに関係するSaaSサービスの開発で、フルスタックエンジニアとして働いてました。

Hiroshi: 確かRecycleBCがそのシステムを使ってるんですよね!( https://recyclebc.ca/ )

Wataru: そうですね。それも同じシステムを使ってます。

Hiroshi: でもそこって、Wataruさんが入社した当初はかなり人数が少なくて、そこから大きくなったっておっしゃってましたよね。

Wataru: そうですね。

Hiroshi: 人数の少ない段階の会社って、制度も文化も何も整っていないことが多いような印象なんですが、その段階でもうドキュメンテーションとかポジティブコミュニケーションの文化とかが確立されてるってすごいですよね。上層部において、カルチャー作りに対する強い思いがあったのでしょうか。

Wataru: それはすごい良い質問ですね!もちろん一番初期の段階ではそんな文化はありませんでした。でも、人が増えるにつれてやっぱりコミュニケーションコストって上がっていくじゃないですか。その過程の中でカルチャーが出来上がっていきましたね。

Hiroshi: なるほど。情報を体系的にまとめておかなければならないという必要性に駆られてのことだったんですね。当時、残業とかってありましたか?

Wataru: 残業らしい残業は一切ありませんでしたね。多分、カナダで働き始めてから残業ってしたことないです。

Hiroshi: 本当ですか!さすがカナダという感じですね。Civic Techという概念に魅せられたのがその会社に入ったきっかけだったとのことですが、実際働かれてみて、期待していたような魅力ややりがい等は感じられてましたか?

Wataru: やりがいはとても感じてましたね。一番嬉しいのは、こういうの作ってるんだよって話をしたときに、あ、それ使ったことある!見たことある!っていうフィードバックが返ってきた時ですね。さっきのHiroshiさんのように。笑 自分の作ってるものに対するフィードバックをエンドユーザーから受ける瞬間って、やっぱりすごく嬉しいんですよ。

Hiroshi: 確かにそうですね。その前の、一番最初の職場は印刷会社だったとのことですが、どの段階でReCollectに転職されたんですか?

Wataru: その印刷会社ではワーキングホリデービザで働き始めたんですが、そこから7ヶ月くらい経った頃に、ワークビザサポートの交渉を始めたんです。その時期にでReCollectのCTOから、一緒に働かないかと声をかけて頂いたんです。その時が初対面ではなかったんですけどね。

Hiroshi: 向こうからのアプローチだったんですね。

Wataru: でもビザが残り5ヶ月しかないっていうのと、ワークビザのサポートも交渉中…ってなると、あまりリスクを冒して動きたくないじゃないですか。

Hiroshi: 確かにそうですね。

Wataru: そのあたりのことは全て丁寧に伝えたんですけど、弁護士雇って全部サポートもするから一緒に働いてほしいっていう風に言って頂きまして。それで入社を決意したという流れです。

Hiroshi: 熱烈なラブコールですね!その前後で確かCivic Techコミュニティに入られて、採用担当の方といろいろお話をされたんでしたっけ?

Wataru: その時は、採用担当っていう枠もなくてですね。そのCTOが本当にプライベートで行ってたミートアップでたまたま知り合ったという感じですね。

Hiroshi: WataruさんのCivic Techに関する熱意や意欲が彼の心に刺さったんですね。

Wataru: そうですね。あとは、そのコミュニティに自己紹介を行う掲示板みたいなものがあったんですけど、そこで自己紹介を書く時にこのTEDトークに魅せられました!これが理由でカナダに来ました!」みたいなことを書いたんですね。それが印象に残ったとも言ってました。

Hiroshi: なるほど、やっぱり、熱意を周りにしっかりアピールしていくっていうのは大事ですね。

Wataru: デベロッパーって、専門性の高い職業だからこそ、特定のドメインにパッションを持っていることのアピールが有利に働くのかもしれませんね。

Hiroshi: 確かにそうですね。それがニッチであればあるほど、帰属意識のようなものも強くなりますね。

Wataru: Civic Techって、すごいニッチな分野だと思うんですよ。メジャーなのってEduTech (教育)とかMedTech (医療)とかだと思うんですけど、そのニッチさが結果ラッキーだったのかなっていう気もしますね。

Civic Tech領域からの一時脱退、Unityへ

Hiroshi: ReCollectでは5年くらい働かれたんですよね?

Wataru: そうですね。5年くらいです。

Hiroshi: テック界隈では、5年って結構長いですよね?

Wataru: 長いですねー。それだけ長期間同じところにいると、自分の市場価値も何もわからなかったです。ただ、本当に同僚とかチームが好きで、Civic Techという分野も好きで…っていう理由で5年間くっついてましたね。同僚でもすごく長く働いている人が多いです。

Hiroshi: そんなに素敵な職場から転職を決意されたのは、どういう経緯からだったのでしょうか?

Wataru: やっぱりどれだけ好きな職場でも、さすがに5年くらい経つと、社内で学ぶことなくなってきたような感覚を覚えるんですよ。他の現場での開発を経験したいっていう学習意欲を理由に転職活動を始めました。

Hiroshi: 応募先はどのように選ばれてましたか?

Wataru: 当然Civic Tech以外で…ということにはなるんですが、Civic Techの会社ってすごい少ないんですよ。BC (ブリティッシュコロンビア州) 内でも2社ぐらいしか知りません。なので、その時は業界を絞らずに、自分のハードスキルを伸ばす!という観点で広く見てました。

Hiroshi: そこでUnityと縁があったんですね。

Wataru: そうですね。転職活動を始めようって思った段階でUnityのリクルーターから声をかけて頂いたんです。その時は何もにこだわりがなかったので、練習にもなるし、落ちてもそんな悔しくないし…ということで受けました。笑

Hiroshi: その時のUnityの採用プロセスはどんな感じでしたか?

Wataru: 確か3段階くらいに分かれてましたね。一番最初に1人の人と、2回目の時に2人の人と、3回目の時に4人ぐらいの人と話して…っていう感じだったと記憶しています。

Hiroshi: コードインタビューはありましたか?

Wataru: ありましたね。Reactを使ったコードインタビュー1回と、コードレビューを模倣した形式のインタビュー1回、アルゴリズムのテストが1回でした。

Hiroshi: なるほど。その時はシニア枠での採用だったんですか?

Wataru: そうですね。ReCollectで5年働いた時点で自分のジョブタイトルがシニアだったので、シニアの求人にしか応募してなかったです。

Hiroshi: Unityで働いてみた感想としてはどうですか?チームとか、働き方とか。

Wataru: Unityは知名度のある大きな会社なので、スキルの高いエンジニアしかいないと思っていたんですけど、私の担当するプロダクトのコードは私が勝手に期待していた水準を満たしていなかったんです。そして悪いパターンが放置され、そのパターンをコピーした機能追加が見られたり、と、期待とのギャップを感じました。

Hiroshi: それはとても意外ですね。

Wataru: 知名度の高い会社だからといって、勝手に期待を上げるのは良くない、就職活動の際も必要以上に恐れる必要はない、ということを学びました。

Hiroshi: 最終的にUnityでは何年くらい働かれたんですか?

Wataru: 1年10ヶ月です。最初の3〜4ヶ月くらいは普通のメンバーとしてコードを書いてたんですけど、先程もお話しした通り、そこから昇進してエンジニアリングマネージャーになって、コード書く時間よりもマネージメントする時間の方が断然長くなっていきました。

Civic Techとの再会、出戻り

Hiroshi: Unityの後は、ReCollectに出戻りした、とのことですが、そのきっかけはどのようなものだったんでしょう?

Wataru: ReCollectのCTOとは退職した後も友人として長い付き合いをしていて、プライベートで会った時に、ReCollect社内で持ち上がりつつあるプロジェクトのことを話してくれたんですよ。私はそれについて、こうした方がいいよ、とか、ちょっとだけアドバイス的なことをしてたんです。

Hiroshi: 前職の幹部とそういった付き合いが続くのは素敵なことですね。

Wataru: そこで、今の仕事はどうなの〜っていうことを聞かれた時に、さっきお話ししたような、期待とのギャップを感じた…みたいな話をしたんですね。本当にちょっとした愚痴みたいな感じですけど。

Hiroshi: なるほど。

Wataru: その日はそこで何もなく解散したんですけど、後日、このプロジェクトについてもうちょっと本気で考えてみる気はないか、っていう風に誘って頂いたんです。出戻りといっても、買収を経て会社は大きく変わっていて、こういうチャレンジが待ってるよ、こういうポジションが用意できるよ、みたいなお話でした。

Hiroshi: 雑談からの始まりだったとしても、古巣から声がかかるっていうのは嬉しいですね。

Wataru: そうですね。自分のやってきたことは間違ってなかったんだ、っていう意味ですしね。我々にとって当然英語は第2言語なわけですが、そういう言語面でのハンデを加味してもなおそういう評価をして頂けるというのは、すごいありがたいですよね。

Hiroshi: 1回目の時は、シニアデベロッパーとしてコードを書かれていたと思うんですが、出戻り後のポジションはどんな感じなんですか。

Wataru: 今はスタッフエンジニアというポジションですね。

Hiroshi: 日々の仕事内容はどういうものなんでしょうか。

Wataru: まだ4日目とかなので、日々も何もないんですけど笑、これから期待されているのは、所属しているデベロッパーの方達のメンターとしての役割ですね。

Hiroshi: あれ、そんな最近でしたっけ?笑 

Wataru: そうなんです。笑 多分6人くらいのメンターを務めることになると思います。既存のエンジニアの人たちの仕事は、機能の追加とか、パフォーマンスの改善とかなんですが、私個人としてはアーキテクトの仕事もやっていくつもりです。

Hiroshi: メンターをやりつつ、Wataruさんも大きめのスコープで手を動かすいう感じですね。それはまたやりがいのありそうなお仕事ですね!

Wataru: そうですね!あまり経験のない分野での大きな仕事ですが、Unityでの経験が自信につながっています。Reactを全然やったことない中で入社しても全然やっていけてたので、今回もやれるだろうという気持ちです。こっちではこれからReactの導入です。

Hiroshi: Wataruさんがメンターをなさるメンティーの方々は、キャリアの浅い方々なんですか?

Wataru: そこはジュニアからシニアまでバラバラですね。みんなと1on1をやっていくつもりです。

Hiroshi: 会社の屋台骨になるようなポジションですね。当面の目標等はありますか?

Wataru: 今自分の中で目指しているのは、ビジネススコープのディレクターをやってる方の右腕的存在になることですね。

Wataruさんの勉強方法・Book clubについて

Hiroshi: Unityで初めてReactを使い始めたとのことですが、新しい技術を学ぶ際、Wataruさんの定石となっているようなやり方はありますか?

Wataru: 心がけているのは、Qiitaとかをあまり頼りにしすぎないことですね。Qiitaが悪いとかではなく、同じ時間を使うなら、書籍とか、もっと体系的に情報が整理されてるリソースをあたるという意味です。体系的に整備されていない情報って、どうしても偏りが発生しちゃうじゃないですか。オンラインコースとかも良い選択肢ですね。

Hiroshi: それは僕も賛成です。Stack Overflowとかも、まあ色んな意見がありますよね。笑 WataruさんがBook clubを開催されているのは、そういった思想を広める為でもあったりするんでしょうか?

(Book club: 期限を決めて1冊の本を読み切る為に作るグループ)

Wataru: それも理由の一つとしてありますが、Book clubの一番良いところはほかにあります。数週間かけてみんなで本を読んでいく中で、ちょっと脱線した議論が発生することがあるんですよ。その中で、こういうアプローチがあるんだ〜とか、副次的な学びの機会が自然発生することが一番大きなメリットかな、と思っています。

Hiroshi: なるほど、確かにそうですね。そういったものは1人では発生しませんね。

Wataru: あとやっぱり、英語の技術書をまるまる一冊読むって大変なんですね。自分にプレッシャーを与えるためにも、他の人を巻き込んで一緒に読んでいきたいっていうのがあるんですよ。

Hiroshi: Book clubが始まったきっかけは何だったんですか?

Wataru: 当時、Clean Architectureっていう本を読もうとしていたんですけど、これ一人で絶対読めないなって思ったんですよね。そこでTwitterで、興味ある人いたら一緒にBook clubやりませんか〜ってツイートしたら色々な方に反応していただけて、それが初めのきっかけでした。

Hiroshi: 今はFrogでの定番行事の一つのようになってますね。

Wataru: あとは、同じくFrogメンバーのGinpeiさんが、ライトニングトークとかJavaScript講座とか、そういうイベントを率先して開催なさっていた方がいらしたんですが、その方にインスパイアされたというのもあります。

Hiroshi: なるほど!先駆者的な方がいらしたんですね。

Wataru: Book clubをやってると、自分の知識、自分のスキルが上がるのはもちろん、副作用的に、新しいデベロッパーの知り合いが増えたりするのも良いところですね。さらに、その本を読んだことが面接での話題になったりもします。

Hiroshi: そこで話が盛り上がるととても好印象ですね。

Wataru: 本を読んでいく中で取るノートも結構いいアセットになります。そのノートを見返すと、元々の本をいちいち開くよりも目的の情報が簡単に見つかったりするんです年に2冊か3冊分のBook clubに参加するだけで、知識ってすごい増えるんですが、それで年収が30%とか40%上がる可能性がある。それを考えたら、1冊50ドルの技術書ってすごい良い投資だと思います。

雪の日の写真撮影。異なる景色が見える貴重な日

カナダへの渡航からこれまでの振り返り

Hiroshi: カナダでのキャリアは現在8年目とのことですが、その中で、めげそうになった時とかってありましたか?もう日本帰りたい…みたいな。

Wataru: それはないですね。日本ではSIerで5年間働いたんですけど、その時の労働環境があまり良いものではなかったので…。もちろん日本はまだまだ大好きで、遊びにも行きますが、人生の時間の大半を占める仕事をハッピーにやりたいとなると、私にとってはカナダが最適な選択肢だと感じています。まあ日本での経験は10年以上前の話なので、今は労働環境も色々変わっていると思いますが。

Hiroshi: 確かに、過去にそういった辛い経験をしていると、こちらで頑張るモチベーションにはなりますね。

Wataru: 年齢で自分のポジションが決まる、みたいなことが日本の職場ではあったんですが、そういうのは本当に嫌でしたね… スキルはあるのに、年次を理由に評価してもらえず、チームをリードできないとか、そういう場面に出くわした時はやるせなかったです。

Hiroshi: 日本にいらっしゃった時ってかなり昔のことだと思うんですけど、その頃から大きく成長したなとか、大きく人間的に変わったな、みたいな部分って何かありますか?

Wataru: 社会を見る価値観が変わったことですかね。年齢とか人種とか性的指向とか、日本にいた頃の自分はそういったダイバーシティ的なことについて、少し偏った考え方を持ってた気がするんですよ。そういう偏りがこっちに来ていい意味で破壊されて、周りのみんなをより公平な目で見られるようになったと思います。

Hiroshi: カナダは世界屈指の移民国家ですもんね。

Wataru: それと同時に、自分自身がマイノリティの枠に入ることで、マイノリティ側の視点でものを考えられるようになったと思います。日本では、日本人男性ってだけでマジョリティの枠に入るので、ここは日本を出てきたからこそ得たものかなと。社会を見る目が寛容になったというか、色々な違いを許せるようになりました。

Hiroshi: 僕はまだこちらに来て2年ほどですが、似たような感覚を持っています。マイノリティに属する人達が傷つきかねない発言とか言葉遣いにちょっと敏感になったりしますね。

Wataru: そうですね。あとは、これはさっきの話にちょっと関連しますけど、もう本当に年齢に関係なく結果で評価してもらえる。逆に言うと、結果でしか評価されないので、勉強を続ける良いモチベーションになっていると思います。

Hiroshi: おっしゃる通りですね。僕も年齢に関するバイアスのようなものはほとんど無くなりました。

今後の展望・メッセージ

Hiroshi: 今後の展望等について何か考えられていることはありますか?

Wataru: 2年前くらいに家を買って、子どもも2人いるので、向こう数年は父親としての成長にフォーカスしていきたいです。あとは、Frogにはとてもお世話になっているので、そのコミュニティへの貢献もどんどんやっていきたいですね!日本人のエンジニアの方も増えてきていますし。Book clubもその一環として役に立てているのかな、と自分でも思っています。

Hiroshi: そうですね!僕もFrogには大きな恩を感じているので、もっと還元していきたいなと思います。

Wataru: 仕事の面で言うと、任されているアーキテクトとしてのタスクをこなす他に、ビジネスサイドについても学んでいきたいと思っています。Civic Techの流れを広げていきたいんですよ。そこに興味のある仲間が増えたら、新しい事業が始まる可能性もある。

Hiroshi: Wataruさん的には、Civic Techのどんな魅力を多くの人に伝えたいですか?

Wataru: 影響を与える人の範囲が大きいところですかね。Civic Techって、今までほっとかれていた社会問題を解決できる可能性があるんですよ。ゴミ収集を例に挙げると、そのビジネスモデルなんて過去数十年ほぼ変わってなかったと思うんですが、テクノロジーの力でそのビジネスモデル・構造を上手く変えることができたら、税金をより効率的に使ってもらえる。そういうプロセスに携われるのは、大きなやりがいですね。

Hiroshi: 確かに、大きな社会的意義のある仕事ですね。

Wataru: ある街が、ReCollectのシステムを使って年間2,000万円くらいの経費を削減できたという事例があるんですよ。それでその街の役所職員の方が我々のプロダクトの大ファンになってくださって、我々から頼まずともそれを公に発表してくださったんです。ゴミ出しカレンダーを印刷する頻度が減ったので数百本の樹を救った!みたいな。こういうことを経験すると、本当にモチベーションが上がりますよね。

Hiroshi: それは最高のエピソードですね!最後に、これからカナダに渡航する、渡航を検討している方々に向けて何かアドバイスはありますでしょうか?

Wataru: エンジニアとして働くなら、英語って切っても切れない関係だと思うんですよ。となるとまあ英語を勉強しなきゃいけないと思うんですけど、その一番の近道が英語圏に身を置くことだと思いますね。Get into the cultureです!カナダに限らずですけど、自分とは違う人種の人たちの輪の中に入ってそこに溶け込むっていうアクションを提案したいですね。

Hiroshi: 大変なこともありますが、それが最も血肉になりやすい方法かも知れませんね。

Wataru: 人種が違うとかっていうのは、もちろん差別とかそういう話ではなくて、さっきもお話した通り、色んなな人達のいるコミュニティに入るとそこで自分の価値観が広がるんですよね。多様な視点で様々な物事を見れるようになるので、そこを強くサジェストしたいです。

Hiroshi: 技術力ももちろん重要ですが、同等に重要な側面ですね!

Wataru: あともう1つ!これはYuyaさんが話されていたことなんですが、彼は転職するつもりがなくても、転職活動してたみたいなんですね。それもおすすめしたいです。そこでのフィードバックは、自分の市場価値を測る為の最も有用な尺度なので。私もそれを真似して役に立ったと思っています。

Hiroshi: 自分を過小評価したり、過大評価したりすることを防げますね。

Wataru: おっしゃる通りです。実際私も5年間同じ場所で働いていた時は、自分のことを過小評価していたような気がするんですが、それって機会損失ですよね。

Hiroshi: 転職活動はたくさんのエネルギーを使いますが、臆せずにやっていかないとですね。

Wataru: Frogには、私の他にもBook clubを主催している方が数名いらっしゃいます。そのどれかに参加して頂けたら、きっと有意義な時間を一緒に過ごせると思いますし、また、Book clubを主催したい!という気持ちが芽生えたら、私に声をかけてくださればサポートします。どうやって始めるか、どうやって場の流れを作っていくか、とか、その辺はサポートできると思います。

Hiroshi: Frogの方々は皆さんサポートに積極的ですからね。日本にいる時からFrogとつながっておいて、渡航してからもこのコミュニティをしっかり活用すると良いことも多いと思います。

Wataru: いわゆる「強強エンジニア」の方とたくさん知り合えますからね!笑

Hiroshi: おっしゃる通りです!本日はお時間頂きありがとうございました!


いかがでしたか?ソフトスキルは大事だ!と一口に言われても、結局どういう結果につながるのかあまりイメージできていなかった方も多いのではないかと思います (私Hiroshiもその1人です) 。Wataruさんのように、経験豊富なエンジニアの口からその実体験を聞くことができたのはとても価値のあることだったのではないでしょうか。また、Civic Techという分野が社会に与える影響力やその魅力についても、このインタビューを通してご理解頂けるととても嬉しいです。みなさんも今日、今この瞬間から、ソフトスキル磨きを始めていきましょう!

ではまた次回のインタビューをお楽しみに。

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